第1回 2006年度 物質科学分野 受賞者 高峰 愛子さん

九州大学大学院 理学研究院 物理学部門 准教授 博士(学術)

科学とはこの世を知るひとつの手段
常識を疑い失敗を乗り越え世界を解き明かしていく

数式で現象を解き明かす驚き
画家志望から物理の道へ

高校1年生までは画家になりたいと思っていました。
ホラーの絵本作家になりたくて美大への進学を希望していましたが、両親を説得しきれなくて断念しました。
その一方で、高校2年生から始まった物理の授業のおもしろさに惹かれました。それまで自分は文系だと思っていたのですが、身の回りの現象が、数式できれいに解き明かせるということに衝撃を受けて!そのときの物理との出合いから、1年間の浪人生活を経て理系学部に進学しました。
原子物理学に進んだきっかけは『フォトンの謎 ― 光科学の最前線― 』(水島宜彦著・裳華房刊/ 1994年)を読んで。レーザーに興味を持ち、研究室にあるいくつかのテーマの中から、変わった原子核をレーザー分光して解き明かすというものを選んで取り組み始めました。
何気なく選んだこのテーマが、結果的に私にとっては大きな出合いになりました。いざ原子核をレーザー分光しようにも、そのために原子核を捕まえる装置が存在しなかったのです。というわけで、その装置を造るところから始めなければならず、大学院時代はほぼその研究に費やしました。そして、それは現在も続く私のライフワークになるのでした。

課題があると燃える!
夢中で研究した理研時代

その研究は思いどおりにならないことのほうが多く根気のいる道のりでした。ですが、苦労して造った装置がやっと動き、原子核をとうとう捕まえたときの喜びは今でも忘れられず、それこそが原動力になっています。
それに加えて、私は目の前に課題があると燃えるタイプでもあります。たとえば、「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」を受賞したときに開発した技術は、ほかの研究者たちからはうまく動くはずがないと思われていた方法でした。しかし、そういう前提を疑って挑戦することこそ科学の醍醐味だと思うのです。
こうして長年にわたるプロジェクトを続けてこられたのは、大きなビジョンがあったわけでも何かがモチベーションになったわけでもなく、ただ夢中だったから。「解き明かしたい」その思いのみでした。

受賞という成果と評価で研究者としての覚悟を決めた
研究を生業にしようと決断したのは、「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」がきっかけでした。今から20年前、第1回の物質科学分野での最初の受賞者になりました。指導教官の勧めで応募したのですが、研究を他者に評価してもらえたことで「このまま続けていいんだ」ととても勇気づけられ、同時に「続けていく」覚悟もできました。研究内容も私自身も知られたことで、評価してもらった以上、今一度襟を正そうという思いも芽生えました。
とはいえ研究者というのはポストも不安定ですから、そこからこれまで脇目もふらず原子核に没頭し続けたわけではありません。助教として青山学院大学に在籍しているときは原子核と原子の境界領域を専門にしていて、テレビ出演などの渉外活動も担うなどして研究が止まっていた時期もありました。しかしその時期もまた、再び原子核の研究に向かうために視野を広げてくれる経験となりました。

研究をつないでいく使命
次世代育成への思い

自分自身が悩んだり勇気づけられたりした経験を経て、今は次世代の育成に関心を持っています。その場に選んだのが九州大学です。研究だけをするのであれば研究機関が最良の環境なのですが、研究とは後継者につないでいくことも大事だと思うようになったからです。たとえば原子核の測定でいうと、私が原子核を捕まえる技術を開発したあと、後続の研究でその理論を基礎とした装置が
開発され、今では原子核の質量を精密に測ることまでできるようになりました。それぞれの研究の成果がバトンのようにつながることで、謎が解き明かされていきます。
現状の課題としては修士で修了してしまう学生が多いので、研究者となってくれる人材をいかに育てるか。それが今、私の指導者としてのテーマであり、ミッションでもあります。
また、女性科学者を増やしていくには、世間の科学に対する見方を変える必要もあります。特に物理学を学びたいと言うと、親御さんに「何の役に立つの? 就職できるの?」と心配されるのだと聞きます。基礎研究とは「何かの役に立つかどうか」を考えるものではないのですが、それが進路の高いハードルになってしまっているように感じます。
本来、学問は親御さんに干渉されながら取り組むものではないはずです。海外では大学からは自分で学費を稼ぎ、自立して学ぶ研究者がほとんどです。そういう面でも、日本の教育システムは未成熟な部分が多いように感じます。
なぜなら、科学って「疑う」ことだから。常識や固定観念を疑い、世界の現象を解き明かしていくのが科学です。だとすると、研究者は人の敷いたレールを歩くのではなくて、そのレールを疑い、自分で人生の決断ができる人でなくてはなりません。そんな自立して成熟したマインドの研究者を育てていくことが、日本の科学界の未来をつくっていくと思います。

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