第2回 2007年度 生命科学分野 受賞者 戸張 靖子さん

麻布大学 獣医学部 動物応用科学科 准教授 博士(理学)

私にとっては「サイエンスインライフ」
科学と生活は切り離せない、まさに人生そのものです

幼少期からの動物への親しみと研究職への興味が原体験
母が生き物を飼うのが大好きで、子どもの頃から動物が身近な存在でした。哺乳類や魚類、鳥類などさまざまな動物に囲まれて過ごす中で、鳴く動物たちが何を伝えたいのか知りたいと漠然と思っていました。たとえば猫や鳥は鳴きますが、亀は鳴きませんよね。その違いも不思議に思っていました。それが鳥類の「歌」のような動物の発声を制御する神経回路や、歌と遺伝や環境との関連を明らかにする研究の原体験となっています。
進路を考える高校時代には、動物に関する研究職に就きたいと思うようになりました。高校の成績は優秀だったというわけではなく、友人よりずっと悪いことを自覚していました。そんな高校生にとって“研究職”は敷居が高いはずなのですが、高校と同じ敷地内にあった短期大学の図書館の本を読んだり、家庭教師の先生が航空工学分野の大学院生だったことや、高校の数学の先生が学位を持っていたことなどから、彼らの研究生活の話を聞いて「楽しそう、私も研究がしてみたい」と興味を膨らませていました。
そして、大学に進学。入学前は「大学は放任主義で自主学習するところ」というイメージがあったのですが、この大学はそのイメージを覆す環境でした。教育は少人数制で、講義には課題レポートがあり、それに対するフィードバックも丁寧にありました。また、多様な実習の場で、先輩や先生方から積極的に声をかけていただき、コミュニケーションを深めることができました。そのことは大学の先生や研究環境への安心と信頼、研究への強いモチベーションになりました。

ジュウシマツの求愛の歌に着目
研究者としての資質に悩んだことも

大学の掲示板で紹介されていた動物学のシンポジウムに参加し、動物行動学の第一人者である岡ノ谷一夫先生の講演をうかがったことをきっかけに鳥の歌行動に興味を持ちました。私はそれまで、動物の声は生得的だと思っていたのですが、先生の講演でヒト、鯨類、小鳥は歌を学習するのだと知りました。「脳の大きさが全然違うのにおもしろい!」と感動したのと、大学の先生の勧めもあり、岡ノ谷先生の所属である千葉大学大学院文学研究科に進学しました。そこで、ジュウシマツのオスのみが求愛歌をうたい、メスはうたわないという行動の雌雄差をつくり出す大脳の構造について研究を始めました。
一方、大学院生時代の私は研究者としての積極性や社交性が低いことを先生から指摘されていました。研究者は目の前の実験に没頭すればいいのではなく、視野や交友関係を広げることが、研究を深めることにつながっていくもの。だからこそ、研究費や賞への応募や学会での交流が大切であると。先生の真意は分かっているのにうまく自分を変えられず、研究所の屋上で悔し涙を流すこともありました。

二度の挑戦で得た新たな思考や発想
背中を押してもらえた奨励賞

博士後期課程2年生の冬、「第1回 ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」の募集を見つけ、自ら応募しました。二次面接での審査員の先生方との質疑応答がとても刺激的で、受賞は叶わなかったのですが、もう一度この経験をしたいと思いました。
これまでの記述的研究に加えて小鳥の思春期発動と歌学習の完了を結びつける物質を探すという研究課題を申請し、二度目の挑戦で受賞できました。想定していた物質は鳥類にはないということが後々分かるのですが、二度の挑戦を通じて研究者として必要な思考や発想が身についた貴重な経験になりました。
私にとって「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」は、研究者としての現在につながる大きなターニングポイントだと思っています。受賞の一報を受けたときは、研究活動をしていた解剖棟の屋上で「ワーッ!」と叫びました。屋上は私の研究に不可⽋な場所みたいです。

世間にとって身近な分野だからこそ科学の楽しさを伝えられたら
ポストドクター(博士研究員)として研究活動に従事するようになると、学生の頃よりもさらにアカデミアポストへの厳しい競争を意識しました。研究室の外に出ると、年齢と女性に対する固定観念にさらされ、悩むこともありました。それらを通り過ぎた今でも「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」への感謝の気持ちがとまりません。「動物が好きな子ども」だった私が研究を続けてこられたのは、周りの方たちの数々のサポートのおかげですが、ロレアルという世界的企業がそのサポートを率先して取り組んでくれることはなんと心強いことでしょうか。大学の教員になった今、研究を「続けたい」と願う学生や教員が諦めずにいられる環境づくりのため、私も⿇布大学DEI推進センターのメンバーとして女性研究者や女性大学院生の支援を行っています。
私の研究は日本が誇る愛鳥文化と結びつく身近な分野なので、シチズンサイエンスとしても研究を広げることが可能です。一般の方に科学の楽しさを伝えることで、科学界の発展に貢献できたら―― そんな夢を描いて、高校生の研究活動をサポートするなど、若い人たちとの交流の場を広げています。

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