第3回 2008年度 生命科学分野 受賞者 覚道 奈津子さん
研究活動は新しいものを見つける“旅”
臨床と研究、まったく違うやりがいと魅力がある
臨床医と研究者
2つの世界の交わるところ
私は現在、形成外科医として関西医科大学附属病院に勤務しています。特に眼瞼下垂を専門とし、1週間のほとんどは機能と整容の両立を目指した瞼の手術と外来診療を行い、患者さんと向き合っています。学部3回生の授業で皮膚がんをとった後のお顔を皮弁(血流のある皮膚・皮下組織)で再建する手術を見て、手術というものの可能性に惚れ込み形成外科の道を選ぶことになりました。
医学部は他の理系学部に比べて必ずしも大学院に進学しない学生も多くいます。研究者は未知の世界を解き明かしていく仕事であるのに対し、臨床医は患者さんを治すために必要な知識をどれだけ持っているかがとても大事。両者は目的と性質がまったく違うからです。しかし、私は最終的には臨床医になるビジョンを明確に持ちながら、研究の楽しさに惹かれ博士課程に進学。キャリアの4年間を研究に費やしました。「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」を受賞したのは、大学院在籍時代のことです。
“研究”の楽しさに出合い
入局後、大学院進学を希望
原点をたどれば、私が最初に研究の楽しさを知ったのは小学校5年生の理科の授業でした。先生の指導方針がユニークで、川の流れる仕組みや種子の発芽条件など、教科書を読ませれば数行で終わってしまうようなことを、どうやって証明するかを生徒が自ら考えて実験し、結果をポスター発表し討論することで学ばせてくれました。このプロセスにワクワクしたのが研究者としての小さな、しかし確かなはじめの一歩でした。
関西医科大学では6年間の学部時代に分属実習として1 ヵ月間だけ基礎研究を行うカリキュラムがありました。このとき行った遺伝子の発現を見る実験が楽しくて、「私はこういうことが好きだったんだ」と小学生時代の原体験が重なりました。何をするにも科学のベースは必要と思い、附属病院での研修期間を終えてから、大学院への進学を希望しました。
しかし、当時の形成外科学講座には研究基盤が整っていませんでした。そこで、形成外科学講座初代教授となる小川 豊先生から「研究基盤を一からつくるのなら進学してもよい」と許可をいただき、1期生、1人目の研究者として研究生活をスタートしました。
成果を評価される喜びが臨床と両立するキャリアの後押しに
形成外科学講座ではどんなジャンルの研究をしてもよいということだったので、脂肪に着目しました。脂肪は形成外科の手術ではなじみの深い組織で、植皮の手術や脂肪吸引といった手術の際に廃棄される組織です。ちょうど私が大学院に進んだ頃に脂肪幹細胞の研究が盛り上がっていたので興味を持ちました。
自由に研究ができるのは性分に合っていたのですが、研究環境も整えながらの活動はやりがいとともに苦労もありました。研究費は自由に使っていいと言われていましたが、少額でもいいから私は自立して研究費を集めたいと思っていました。そんなときに出合ったのが「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」です。大学院生でも応募ができ、研究テーマの制約がなく、奨学金の使
途も自由であるという点が魅力的でした。
そしていざ受賞するとその反響は想像以上に大きく、同窓の先生や院内の先生にとても喜ばれました。大学の広報誌にも取り上げられ、対外的に研究の認知度も上がって評価してもらえたことに達成感がありました。何より、まとまった研究資金を得られたことで、博士課程を修了してからも臨床医として大学に残って研究を続ける決断ができました。臨床のやりがいと研究の楽しさとをどちらも追究できる今のキャリアを確立できたのは、「ロレアル-ユネスコ女性科学者 日本奨励賞」の受賞が大きな後押しになっています。
自分で考えて決断する大切さ
指導者として伝えたいこと
振り返れば、小学生時代の科学との出合いも大学・大学院での研究活動も、指導者に恵まれていました。先生方は答えを知っているからこそ学生を誘導したくなるはずなのに、否定せず自由にやらせてくれました。自分で考えてたどり着いた知識には、一方的に教えられるのでは残らない感動があります。その感動や喜びこそが、研究を通じて臨床医として働く私の力になっていると思い
ます。
現在は私も次世代を育成する立場。形成外科学講座での指導のほか、女性のキャリア形成支援も行っています。アカデミアに限らず臨床医の世界でも、女性がキャリアを中断せずに働く環境づくりは急務です。女性の平均初婚年齢は29歳と言われていますが、医師のキャリア形成時期と妊娠期が重なり、就業率が下がってしまうのです。このタイミングをどう考えるかは、非常にデリケートな
個人の問題です。考え方を押し付けるのではなく、自分で考えて決断するように導くことがキャリア支援においても重要だと感じています。
医学部には女性の学生が増えていますし、私が所属する日本形成外科学会の入会者の男女比はほぼ一対一となってきました。女性が多くなってきた分野だからこそキャリアを中断しない環境づくりを進め、次世代の女性にとって夢のある社会にしていきたいですね。